記憶の海へ

――皆川燈・俳句Site
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伝言〜短歌もどきの試験管をゆさぶって〜

あの人も歌びとくいと尖るあご黄金の髪はベールに隠し
息を殺して虫しぐれの谷へ

屠らるる牛の眸をひたと見しのちゆっくりと立ち去りしとぞ
生きたしよ秋草食みて蜜吸うて

透けていく摩天楼なり夕暮はひかりの箱がゆっくり昇る
衣縫うており天空の芒原

王族の血をたぎらせて浜木綿となるゆえひとり誰をも待たず
秋はゆくゆく血脈の重たさを

雪の朝へ生まれてみたが山鳩があまりにやさしく啼くから長居
アラベスク模様をたどり産声へ

病める葦も折らずといえど深く病むその暗がりを神は知らざり
憂鬱なアンドロメダは飲みほさん

月光に襟も袂も濡れそぼちあまたの母が解読を待つ
秋蝶に噛まれし指の先は雨

忘れてはいないはずだが面影はサラサラ零れ落ちて晩年
たましいがちぎれ海月か水母か

大いなる器に秋の水くめばしたしたしたと地へ染みていく
黄昏の奥にたたまれゆく家族

きらきらと少女ら憩う中庭の噴水はややはにかみており
はずんでゆがんでころがって地の果て

おみならはみなみずうみをひとつもちときにゆらしてさざなみたてたり
歩くかな夕焼の空の暗むまで

少年は権力を無化したかりきたった一人の少女のために
ワタシウマレタヨキョウユキガヤンダヨ

『パルチザン伝説』を夜ごと読む日々よ汝の柩の窓を思いて
アンデスのリャマの毛糸は炎いろ

晩秋のカルチェラタンを下りゆく焚火のあとはまだ焦げ臭き
闇市の茜のつららほころびぬ

のえらいてういちこやすこやきびきびと織り機は午後のシャトル飛ばしぬ
冬深し絹の着物という伝言

サラサラと乾いた砂に胡椒振り封筒に詰めて礫としたりと
逝く朝の皿に残りし焼き鰈

蛸壺からの連帯という葉書くる蛸壺ゆらす潮を思えり
新聞紙にくるまれぬくき寒玉子


恩寵か罠か雪崩るる冬銀河  (らん詠・テーマ「壊」)  

(『らん 76号』17.1.10)

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