記憶の海へ

――皆川燈・俳句Site
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新井薬師の骨董市

 昨年来着物熱が高じている私を、友人が新井薬師の骨董市に誘ってくれた。彼女は奄美大島出身で、母上が大島紬の織り手でもあったことを最近知った。彼女と会うとときどき着物姿だったが、素敵とは思ってもどんな着物でどんな帯で……などということには以前はほとんど関心が向いていなかった。
 いまや、彼女がしなやかにまとっているのが、母上の手織りの大島紬であることが眩しい。猫好きの私のために猫の刺繍入りの帯を締めてきてくれると感激である。そんな彼女も新井薬師の骨董市は初めてだという。
 待合せは境内で一時半。彼女は「すてきなものを見つけておいたわよ。あなたにぴったりだと思う」といって、真ん中に青いシートを広げているおじさんの店へと引っ張っていった。おじさんはもう店じまいしかけていた。聞けば市は早朝の六時頃から開いているのだそうだ。えーそうなの。知らなかった。でもありがたいことに、彼女は一時間前に来てちゃんと見つけてくれていた。おじさんと掛け合って値引きまで交渉してくれた。そして私が手にしたのは、宮古上布と呼ばれる麻の絣の一着である。「こんな安い値段で手に入るなんて奇跡よ」と彼女のほうが興奮気味だ。私もにわか学問ながら、澤地久枝の『琉球布紀行』を読み終えたばかりだったので、その希少価値は頭に入っていた。なんだかボーッとしたまま、軽やかな絣の一着を手にたたずんでいた。
 うれしさがこみあげてきたのは、家に帰っておそるおそる自分にあてがって鏡をみてからである。小さな絣模様が愛らしい。本当に軽くて涼しくて、真夏に来たらさぞかし気持いいだろう。どんな女性が着たのかなあ。いつの時代のものだろう。いずれにしても友人のような先達がいなければ、生涯出会うことはなかったのだもの、感謝あるのみだ。
 数日後、通っている和裁教室の先生に見せたら、「うーん、宮古上布かなあ。だって本物だったら百万円以上するよねえ。サイズが小さいから安かったのかもね」とのことだった。友人が見つけてくれたこれは、私のお小遣いの範囲で買えた。しかし、真偽のほどは関係ない。大事な宮古上布を私は抱きしめた。

(『らん 78号』17.7.10)
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